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【武蔵新城】築52年の地域にひらいたマンション「第六南荘」―建て替え予定でも場をつくり続ける理由とは

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「新城マガジン」について

新城マガジン」では、武蔵新城を多くの人に味わってもらいたいと、新城の人やお店を発信しています。多摩川を渡った川崎市、唯一通っている路線は南武線。なんだか懐かしくて肩の力が抜ける町です。運営:新城WORK

武蔵新城駅の北側にある「第六南荘」。

以前は全物件が住戸となっている普通のマンションでしたが、現在は1階に建築事務所や洋菓子店やチーズ屋さん、裏手には茶スタンドやコーヒー豆屋さんなど様々なテナントが入っています。

「第六南荘」は大家さんである石井さん、1階に事務所が入っているピークスタジオが中心となって、リノベーションをしてきました。ピークスタジオは、5年前に石井さんに声をかけられたことをきっかけに、新城に事務所を移転、新城テラスを皮切りに第六南荘をはじめ新城WORKなど、新城にある様々な建物の設計を担当しています。

5年間で第六南荘はリノベーションやイベントを催すなどして少しずつ変わり、今では小学生から高齢の方まで様々な方が訪れる、地域にひらいたマンションになりました。ですが、1970年築で現在築52年、数年後には建て替えることが決まっているとのこと。

建て替えが決まっているにもかかわらず、なぜ場をつくり続けているのでしょうか?今までの経緯やその背景にある想いを、石井さんとピークスタジオの佐屋さんと藤木さんにお話をお伺いしました。

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目次

“じわじわ” 変えていくことで、地域のひとが関わりやすくなる

―――ピークスタジオは最初に新城テラスの設計をされたんですよね。そこからどのような経緯があって事務所を移転されたのでしょうか。

佐屋「東京に事務所があったとき、地域や周りともっと交流をして何かをつくりたいなと思っていたんです。そんなときに、石井さんに新城に事務所を移転しないかと声をかけていただいて。今後石井さんの活動が面白くなっていくだろうなと思って、移転することに決めました。

第六南荘に移転してきた5年前は、1階の住戸はブロック塀で囲われていたんですが、石井さんから『5年後に建て替える計画なので、自由にしていいよ』と言われて(笑)事務所の入る物件の前のブロック塀を壊すところから、リノベーションをスタートしました。」

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当時の様子

―――今と雰囲気が全然違いますね・・・!

石井「ピークスタジオが一階をできるだけオープンにするプランをつくってくれて、それが面白かったのでそのように進めることにしました。一階に入っていた自社のグループ会社の事務所に移転してもらい、まずはichie(焼き菓子屋さん)、他の部屋も入居者さんにご協力いただいて移ってもらい、mikoto(チーズと食材のお店)、mottano(コーヒー豆屋さん)がオープンしました。」

―――最後に空いた1号室はイベントスペースにしてから、今では茶スタンドや訪問看護ステーションになっていますが、どのような経緯があったのでしょうか?

石井「1号室には鈴木さんというおばあちゃんがひとりで住んでいたんです。鈴木さんは新築時から住み込みで管理人をされていて、その部屋でふたりの娘さんも育てられて。鈴木さんは、もともと近所の人たちとの交流が好きな方だったので、ピークスタジオの方々をはじめ住民や1階のお店の人たちと交流することを楽しまれていました。

ですが、ご高齢ということもあり娘さんと同居することになったので、1号室も空き、その部屋は鈴木さんがまた来たときに立ち寄れるようにと、壁を塗るなど簡単にリノベーションをしました。

その後1号室はキッチン付きレンタルスペースとして、イベントなどで利用していて、そのあと2020年には再度リノベーションをして、茶スタンドと訪問看護ステーションになったという経緯があります。」

―――茶スタンドと訪問看護、というのは新しい組み合わせですね。

石井「PASARBASEというレンタルスペースで毎月行われていた『医療介護』をテーマにした座談会の主催をしている中尾根さんから、地域の訪問看護の取り組みをしたい、という相談をもらって。訪問看護って一般的には看護師が訪問するけれど、それだけではなく、地域におじいちゃんやおばあちゃんたちが気軽に出てこれるようにしたい、と。そこで、高齢の方々が訪れやすい飲食店をつくることにしました。それが茶スタンド六一と訪問看護シンジョーステーションの最初の構想です。

加えて、六一のお茶やmottanoさんのコーヒーを飲めるようにと、裏手にある花壇を中心に新たにベンチやタープを設置して『D6PK(ダイロクパーク)』という公園にしました。」

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左・六一/右:D6PK
写真:Nao Takahashi(ピークスタジオ一級事務所HPより

―――一気に変えずに少しずつ時間をかけて変わってきたんですね。

藤木「そうなんです。建物が一気に変わると近づきにくかったり周りとのギャップがうまれてしまったりするけれど、ジワジワ変えることで受け入れられやすくなるんじゃないかと思っています。」

境のない、グラデーションがかかった場にしたい

―――今では、シンジョーステーションには高齢の方が、2階の英会話教室には子どもたちが集まり、多様な年代が集まる場になっていますよね。色々な人のつながりや偶然が組み合わさり、現在のような場になっていると思うのですがどのような場にしたいと考えられていたんですか?

佐屋「自分たちの場所だから、どうしたらもっと良くなるか、楽しくなるかをずっと話してきました。ピシッと線引きをするんじゃなくて、少し厚みや幅があって、グズグズにする感じがいいよねって。限られた人だけの場所っていうのが、あまり良い状態ではないというか。いろんな人が使ったり世代交流が生まれたり、そういうきっかけみたいなものが取り巻いてる状態を目指しています。」

藤木「公の場だけど、そこに関わる人たちの個性がちょっと出てている、という感じがいいなと思っています。実際に、ベンチに散歩の途中で休憩する人がいたりチョークで落書きしたり道路で遊んでたりする子どもたちを見ていて、まさに限られた人だけではない色々な人の場になってきていますね。」

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―――今でも住人の方が住まわれていると思うのですが、今まで何かトラブルなどは起きなかったんですか…?

石井「イベントのときには少しご意見をいただいたこともありましたが、ほとんどないですね。自分も、プライバシーとパブリックのグラデーションがかかっている状態にしたいと思っているのですが、新しいチャレンジだなと思っています。

普通は、私有地って区切ろうとしますよね。なぜかというと、例えば一般的には第六南荘のような駅に近いマンションだと、居住者以外も自転車を止めたりして駐輪場に自転車が溢れるみたいなことが起こりやすい。ですが、ここでそういったことが起きていないのは、お互いに顔がわかる関係性をつくることで秩序が保てているからだと思っていますね。

それは、ピークスタジオのメンバーをはじめ入居者のみんなが、住民や近所の方に挨拶をし続けたり、交流をしたり、いい関係を築いてきたからだなと思っています。」

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イベント時の写真

建て替えた後の新築マンションにこの文化が継承されていく

―――数年後には建て替えることが決まっていても、リノベーションに費用をかけたり、関係構築に力を入れたりなど、場づくりをし続けるのはなぜなのでしょうか。

石井「全部建て替えた後のためにやっているんです。建て替えた後、文化がなければ普通の賃貸マンションになってしまうけれど、今ここでできている文化をちゃんと継承することができれば、その新築のマンションの価値にもなるんじゃないかと。」

佐屋「私たちは風景をつくりたいと思っていて。『景観』は建物に使われる言葉で、美しいとか良いとか悪いとかで評価されますが、『風景』は人の心象とセットになっていて、人の活動や文化と関わるものだと考えているからです。

なので、第六南荘という建物がなくなっても、そこにいる人の想いや感情にも残ることで、風景になり文化が継承されていくと思います。」

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Nao Takahashi(ピークスタジオ一級事務所HPより)

―――他の住戸はAirbnbや会員制図書館など、活用の幅が今でも広がっていますよね。今後はどのような場にしていく構想を描いているのでしょうか?

石井「あまり明確には描いてなくて、今までが確実に形になってきてるから、このあとも自然と形になっていくと思っています。リノベーションという業界でこういう長時間かけて少しずつ変えていくことって、そんなに事例がないのかもしれない。だけど、みんなでつくっていくことで可能性を探り続けた結果、今の第六南荘になっているので、これからも新しいリノベーションの事例としてつくり続けていきたいですね。」

藤木「今ここの建物に入っているシンジョーステーションや英会話教室は、イベントで生まれたアイデアやここにあったレンタルスペースでお試しでやったことを、形にしているんですよね。

そのように、新城に集まってきた人たちがやりたいことを実現するために物件を借りるという流れができているので、今後も石井さんが色々なチャレンジする人を応援するための場として、色々な人の活動を受け入れられる場所になっていけばいいなと思います。」

第六南荘に入っているお店は下記よりご覧ください◎

菓子工房ichie
ナチュラルチーズと食材の店mikoto
mottano もっとおいしいコーヒー
茶スタンド六一

ピークスタジオと石井さんが一緒につくりあげたコワーキングスペース「新城WORK」についての記事はこちらから👇🏻
武蔵新城で暮らす人の居場所に。みんなのはたらく場「新城WORK」の今までとこれから

バナー写真撮影:Nao Takahashi(ピークスタジオ一級事務所HPより)
文:とやまゆか

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